安全宣言より安心を
2011年5月25日
放射能汚染による被曝によって癌になるかどうかは確率の問題なので、非常に汚染しているところに長時間いれば高い可能性で癌になるが、いくら汚染の度合いが低くても、いくら短時間しか汚染地域に居なくても、癌になる可能性は低くはなるがゼロになることはない。
従って、「これくらいの放射能汚染なら安全です」という表現は、厳密には科学的に誤りなのであって、絶対的な「安全」とは、汚染がゼロでない限りありえない。だから、「校庭に於ける3.8μSv/h未満の汚染は、安全です」という表現は、科学的には間違っている。
「安全」という言葉を使った別の表現としては、「安全性」というものがある。安全性は高かったり低かったりするもので、多くの場合、比較の問題である。「安全性の高い車」にはエアバッグがついていたりするが、これはエアバッグの無い車と比較して安全性が高いのであって、絶対的に安全であるわけではない。車という乗り物には、程度の差こそあるが、ある一定の危険性が必ず存在する。しかし、技術の進歩と共に車の安全性は少しずつ上がってきた。だから、昔の車より今の車のほうが、「安心」して乗ることができる。
「安心」という概念は主観的なもので、人によって何を持って「安心」できるかが違う。放射能汚染に関しても、どれくらいの汚染度なら安心して過ごせるのか、個々人によって異なるはずである。また、人によって放射線に対する感受性に違いもある。私自身も、どれくらいの汚染なら安心できるかというのが良く分かっていないし、今後、ある程度の放射能汚染がある地域に住む可能性もある。そこで、現段階でどれくらいの汚染度なら安心して過ごすことができるのかの判断材料として、地域の汚染度と発癌の頻度との関係について、ざっと計算してみた。
計算するための指標として、一般に言われている「100mSvの被曝を受けた場合に0.5%の確率で癌になる」という値を用いている。
まず、ある地域に30年続けて過ごした時に、どれくらいの割合(%)で癌になるかを、Cs-137とCs-134(放射性セシウム)の半減期を考慮に入れて計算したのが、下の表である。
それぞれの行は、被曝が始まった年の放射線量ごとに発癌の割合を示している。各列は、汚染がCs-137のみとした場合、Cs-134のみとした場合、Cs-137とCs-134が50%ずつの場合において、計算している。一番右の列、「除染あり」は、その地域による除染(人工的なものと自然によるものの両方)が進み、1年間で半分に減る(2年間で4分の1)ケースを考えている。文科省のデータでは、Cs-137とCs134の量はほぼ等しい(1:1)ように見える。このケースで、被曝が始まった年に20mSvを浴びる地域だと、30年間被曝すると凡そ1.3%の確率で癌になるという計算になった。私個人の主観を述べさせてもらえば、これは「安心」できる値ではない。やはり、1mSvでの0.06%か、それよりも低い値であって欲しいと思う。
次に、生涯にわたってその地域に住み続けたときに、放射能が原因で癌になる確率(%)を、住み始めた時点での年齢別に比較してみた。この表は、被曝が始まった時期のレベルが年間1mSvの場合である。それより高い値や低い値の場合は、適宜掛け算して値を求めていただきたい。例えば、被曝が始まった年に年間20mSvの場合、表の値に20を書けたものが、癌化の確率である。ただし、放射線を浴びて癌になるまで10年の潜伏期間があり、寿命は80歳だと仮定して計算している。従って、70歳以上の場合は可能性がゼロになる。
若い人のほうが一生の間により長く放射線を浴びることになるので、癌化の確率が年上の人よりも高くなる。ここでの計算は、年齢によらず、100mSvの被曝での癌化率が一律で0.5%であると仮定して、計算している。
若い人は新陳代謝が活発で、放射線への感受性が高いことが知られている。平均の癌化率が100mSvあたり0.5%の場合において、リンク先のJW Gofmanのモデルに従って補正した場合の、生涯の癌化の頻度を計算してみた。Gofmanのモデルではデータが55歳までの為、ここでも55歳までしか示していないが、それ以上の年齢の場合は55歳のデータを参考にすればよいだろう。また、表における値は、被曝が始まった時期に年間1mSvの被曝を受ける場合なので、それより大きい・小さい場合は、適宜掛け算して考えていただきたい。
ちょっと驚いたのは、Cs-137とCs-134が1:1の場合で年間1mSvの場合、0歳児のケースだと癌化率が0.2%にまでなることである。年間20mSvの場合は、4%の確率で癌になることになる。100mSvだと、19%である。「100mSvは安全という学説」があるそうだが、いったいどういう計算でそうなるのか、聞いてみたいものだ。
なお、上記の計算値はあくまで参考として捉えていただきたい。色々な理由で、実際にはもっと率が高かったり低かったりするはずである。線量率効果と逆線量率効果も考慮されていないし(国際基準では、考慮しないことになっている)、他の核種(ストロンチウムやプルトニウムなど)も考慮していない(地域の汚染ではこれらの核種の量は放射性セシウムに比べて少ないようである;ただし、魚を食した場合の体内被曝では注意)。また、上記の被曝量は体内被曝を含めた値として考えなければならないが、生態濃縮により汚染食物のピークが地域の汚染度と一致しないため、こういった影響を考慮してシミュレートするのは困難である。
計算してみて、もしGofmanのモデルが正しければ(分子生物学的に考えて、かなり良さそうだと思う)、私の年齢では少々の被曝でも「安心」と思えそうである。逆に、若い人たちへの被曝を少しでも少なくして欲しいという気持ちも、より強くなった。また、除染が進めば影響は劇的に少なく抑えられるので、そういったことも考慮していただきたいと思う。
なお、上記の計算はMicrosoft Excellを用いて行った。計算過程について知りたい方は、下のファイルを参照していただきたい。
2011-05-25-IonicRadiation.zip
(追記:110526)
表3のCs-137:Cs-134=1:1のケースについて、グラフにしてみた。
従って、「これくらいの放射能汚染なら安全です」という表現は、厳密には科学的に誤りなのであって、絶対的な「安全」とは、汚染がゼロでない限りありえない。だから、「校庭に於ける3.8μSv/h未満の汚染は、安全です」という表現は、科学的には間違っている。
「安全」という言葉を使った別の表現としては、「安全性」というものがある。安全性は高かったり低かったりするもので、多くの場合、比較の問題である。「安全性の高い車」にはエアバッグがついていたりするが、これはエアバッグの無い車と比較して安全性が高いのであって、絶対的に安全であるわけではない。車という乗り物には、程度の差こそあるが、ある一定の危険性が必ず存在する。しかし、技術の進歩と共に車の安全性は少しずつ上がってきた。だから、昔の車より今の車のほうが、「安心」して乗ることができる。
「安心」という概念は主観的なもので、人によって何を持って「安心」できるかが違う。放射能汚染に関しても、どれくらいの汚染度なら安心して過ごせるのか、個々人によって異なるはずである。また、人によって放射線に対する感受性に違いもある。私自身も、どれくらいの汚染なら安心できるかというのが良く分かっていないし、今後、ある程度の放射能汚染がある地域に住む可能性もある。そこで、現段階でどれくらいの汚染度なら安心して過ごすことができるのかの判断材料として、地域の汚染度と発癌の頻度との関係について、ざっと計算してみた。
計算するための指標として、一般に言われている「100mSvの被曝を受けた場合に0.5%の確率で癌になる」という値を用いている。
まず、ある地域に30年続けて過ごした時に、どれくらいの割合(%)で癌になるかを、Cs-137とCs-134(放射性セシウム)の半減期を考慮に入れて計算したのが、下の表である。
表1 地域の汚染度ごとの30年後の癌化の可能性(%) | ||||
年間mSv | Cs-137のみ | Cs-134のみ | Cs137/134が1:1 | 除染あり |
---|---|---|---|---|
0.1 | 0.011 | 0.0018 | 0.0064 | 0.001 |
0.2 | 0.0219 | 0.0035 | 0.0127 | 0.002 |
0.5 | 0.0548 | 0.0088 | 0.0318 | 0.005 |
1 | 0.1095 | 0.0175 | 0.0635 | 0.01 |
2 | 0.2191 | 0.0351 | 0.1271 | 0.02 |
5 | 0.5477 | 0.0877 | 0.3177 | 0.05 |
10 | 1.0953 | 0.1753 | 0.6353 | 0.1 |
20 | 2.1906 | 0.3507 | 1.2707 | 0.2 |
50 | 5.4766 | 0.8767 | 3.1766 | 0.5 |
100 | 10.9532 | 1.7533 | 6.3533 | 1 |
200 | 21.9064 | 3.5066 | 12.7065 | 2 |
500 | 54.7661 | 8.7666 | 31.7664 | 5 |
それぞれの行は、被曝が始まった年の放射線量ごとに発癌の割合を示している。各列は、汚染がCs-137のみとした場合、Cs-134のみとした場合、Cs-137とCs-134が50%ずつの場合において、計算している。一番右の列、「除染あり」は、その地域による除染(人工的なものと自然によるものの両方)が進み、1年間で半分に減る(2年間で4分の1)ケースを考えている。文科省のデータでは、Cs-137とCs134の量はほぼ等しい(1:1)ように見える。このケースで、被曝が始まった年に20mSvを浴びる地域だと、30年間被曝すると凡そ1.3%の確率で癌になるという計算になった。私個人の主観を述べさせてもらえば、これは「安心」できる値ではない。やはり、1mSvでの0.06%か、それよりも低い値であって欲しいと思う。
次に、生涯にわたってその地域に住み続けたときに、放射能が原因で癌になる確率(%)を、住み始めた時点での年齢別に比較してみた。この表は、被曝が始まった時期のレベルが年間1mSvの場合である。それより高い値や低い値の場合は、適宜掛け算して値を求めていただきたい。例えば、被曝が始まった年に年間20mSvの場合、表の値に20を書けたものが、癌化の確率である。ただし、放射線を浴びて癌になるまで10年の潜伏期間があり、寿命は80歳だと仮定して計算している。従って、70歳以上の場合は可能性がゼロになる。
表2 被曝が始まった年に1mSvの場合の年齢別の癌化の可能性(%) | ||||
年齢 | Cs-137のみ | Cs-134のみ | Cs137/134が1:1 | 除染あり |
---|---|---|---|---|
0 | 0.1757 | 0.0175 | 0.0966 | 0.01 |
10 | 0.1644 | 0.0175 | 0.091 | 0.01 |
20 | 0.1501 | 0.0175 | 0.0838 | 0.01 |
30 | 0.1322 | 0.0175 | 0.0748 | 0.01 |
40 | 0.1095 | 0.0175 | 0.0635 | 0.01 |
50 | 0.081 | 0.0175 | 0.0493 | 0.01 |
60 | 0.0452 | 0.0169 | 0.031 | 0.01 |
70 | 0 | 0 | 0 | 0 |
若い人のほうが一生の間により長く放射線を浴びることになるので、癌化の確率が年上の人よりも高くなる。ここでの計算は、年齢によらず、100mSvの被曝での癌化率が一律で0.5%であると仮定して、計算している。
若い人は新陳代謝が活発で、放射線への感受性が高いことが知られている。平均の癌化率が100mSvあたり0.5%の場合において、リンク先のJW Gofmanのモデルに従って補正した場合の、生涯の癌化の頻度を計算してみた。Gofmanのモデルではデータが55歳までの為、ここでも55歳までしか示していないが、それ以上の年齢の場合は55歳のデータを参考にすればよいだろう。また、表における値は、被曝が始まった時期に年間1mSvの被曝を受ける場合なので、それより大きい・小さい場合は、適宜掛け算して考えていただきたい。
表3 被曝が始まった年に1mSvの場合の年齢別の癌化の可能性(%) | ||||
年齢 | Cs-137のみ | Cs-134のみ | Cs137/134が1:1 | 除染あり |
---|---|---|---|---|
0 | 0.3142 | 0.0691 | 0.1916 | 0.0405 |
5 | 0.2437 | 0.0598 | 0.1517 | 0.0358 |
10 | 0.177 | 0.0454 | 0.1112 | 0.0282 |
15 | 0.1219 | 0.0244 | 0.0731 | 0.0142 |
20 | 0.0984 | 0.0213 | 0.0599 | 0.0122 |
25 | 0.0777 | 0.0206 | 0.0492 | 0.0122 |
30 | 0.0544 | 0.0172 | 0.0358 | 0.0103 |
35 | 0.0331 | 0.0123 | 0.0227 | 0.0075 |
40 | 0.0167 | 0.0075 | 0.0121 | 0.0048 |
45 | 0.0058 | 0.003 | 0.0044 | 0.002 |
50 | 0.0009 | 0.0004 | 0.0007 | 0.0003 |
55 | 0.0003 | 0.0002 | 0.0003 | 0.0001 |
ちょっと驚いたのは、Cs-137とCs-134が1:1の場合で年間1mSvの場合、0歳児のケースだと癌化率が0.2%にまでなることである。年間20mSvの場合は、4%の確率で癌になることになる。100mSvだと、19%である。「100mSvは安全という学説」があるそうだが、いったいどういう計算でそうなるのか、聞いてみたいものだ。
なお、上記の計算値はあくまで参考として捉えていただきたい。色々な理由で、実際にはもっと率が高かったり低かったりするはずである。線量率効果と逆線量率効果も考慮されていないし(国際基準では、考慮しないことになっている)、他の核種(ストロンチウムやプルトニウムなど)も考慮していない(地域の汚染ではこれらの核種の量は放射性セシウムに比べて少ないようである;ただし、魚を食した場合の体内被曝では注意)。また、上記の被曝量は体内被曝を含めた値として考えなければならないが、生態濃縮により汚染食物のピークが地域の汚染度と一致しないため、こういった影響を考慮してシミュレートするのは困難である。
計算してみて、もしGofmanのモデルが正しければ(分子生物学的に考えて、かなり良さそうだと思う)、私の年齢では少々の被曝でも「安心」と思えそうである。逆に、若い人たちへの被曝を少しでも少なくして欲しいという気持ちも、より強くなった。また、除染が進めば影響は劇的に少なく抑えられるので、そういったことも考慮していただきたいと思う。
なお、上記の計算はMicrosoft Excellを用いて行った。計算過程について知りたい方は、下のファイルを参照していただきたい。
2011-05-25-IonicRadiation.zip
(追記:110526)
表3のCs-137:Cs-134=1:1のケースについて、グラフにしてみた。